日本、EU、英国がそれぞれ作成する文書や声明は存在するが、それらは両国間の法的拘束力を持つ合意文書ではない。

この「無限ディール地獄」の構造は、非公式なディールと四半期ごとの監視を通じて、日本経済を継続的に圧迫していく。

付記:日本のコメ高関税について

しかし、このあまりに理不尽にみえる「無限ディール地獄」の背景には、トランプ大統領が掲げる「相互主義」の理念がある。

相互主義とは「他国が我々を扱うように、我々も彼らを扱う」という原則であり、その理念を実現するための関税が「相互関税」と位置づけられている。

例えば、今回の交渉において日本が米国産米の輸入拡大(ミニマムアクセス枠内での対応)に応じたとしても、米国側が「不公平な貿易慣行」とみなす日本の高関税(従量税341円/キロ、日米両国が過去に算定した従価税換算値700%+)を維持している限り、日本は相互主義に反していると見なされる。

一方、アメリカが日本産米に課す関税は1.2セント/kg(1ドル150円換算で1.8円/キロ)に過ぎず、日本の関税の約190倍もの差がある。

この不均衡=反「相互主義」を理由に、今後もSBS(売買同時入札)枠のさらなる拡大や関税低減など、コメの本格的な市場開放を求められることになる。

もっとも、米国にとって日本向けのコメ輸出は全体のわずか0.37%に過ぎない。日本が輸入を倍増させたところで、経済的な意味合いは限定的である。

しかし、トランプ大統領にとって、日本のコメ市場は貿易慣行における世界的な「不公平性」の象徴であり、相互主義に立たない国には「相互関税」が課され、引き上げられるというメッセージを送るための重要なカードであり続ける。

編集部より:この記事は、浅川芳裕氏のnote 2025年7月30日の記事を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は浅川芳裕氏のnoteをご覧ください。