一方、日本側は、米国の関税措置に関する日米協議: 日米間の合意(概要)と題した文書(内閣官房 米国の関税措置に関する総合対策本部事務局)を作成している。
この文書には、「政府系金融機関が最大5500億ドル規模の出資・融資・融資保証を提供」といった日本の具体的な譲歩が記載されている。
しかし、この日本の文書は、両国間の「公式な合意文書」として、米国政府によって法的に承認・締結されたものではない。
この文書の性質は、「米国の関税措置(=関税を引き上げる大統領令)を出させないための、あるいは現状の関税率を引き下げさせるための、日本側からの譲歩提示と、その『お土産』について協議した記録」に過ぎない。
米国は一方的な大統領権限で関税を発動できる立場にあり、相手国はそれを回避するために譲歩を提示した内容を、日本の立場で記したものに過ぎないのだ。
なぜ「齟齬」が生まれるのか
実際、日本側が出した文書と、米国側が先に公表した文書「ファクトシート:トランプ大統領、前例のない日米戦略貿易投資合意」との間に齟齬があると批判されている。
しかし、この齟齬は必然的に生じる。
なぜなら、もし両国間で齟齬なく「完全な合意」が成立し、それが時間をかけて正式な貿易協定として結ばれれば、各国は友好国として扱われることとなるからだ。
その結果、トランプ大統領が相互関税を発動する根拠とする「国家非常事態」の前提条件そのものが崩れてしまう。
したがって、トランプ大統領にとっては、このような完全かつ公式な合意ではなく、齟齬が存在する不完全で非公式な合意こそが不可欠なのである。
この意図的な齟齬によって、今後も交渉は継続する。
その過程で、日本側の貿易慣行には「異常かつ重大な脅威」が存在するという建付けとレトリックを、トランプ大統領に絶えず提供し続けなければならない。
たとえ日本側が提供しなくても、トランプ大統領側は今回の合意がなかったかのように「日本のここがおかしい!」と指摘し、新たな要求を突きつけてくるはずだ。