実験の結果は、非常に興味深いものでした。
文脈再現を行わなかった対照群では、予想通り、時間の経過とともに記憶した内容を思い出せる量がどんどん減少していきました。
一方で、文脈再現を行ったグループでは、忘却が進んだ後でも記憶を思い出せる量がかなりの程度回復しました。
例えば、24時間後に記憶をテストした場合、文脈再現を行ったグループは記憶の約6~7割ほどを思い出すことができました。
対照群はそれより明らかに低い成績にとどまっていますから、文脈再現が記憶の回復に明確な効果を持っていることがわかります。
一方で、時間が経ち過ぎてしまうと、文脈再現による記憶の回復効果はかなり低下することも判明しました。
7日後(1週間後)にテストを行ったグループでは、回復はわずかでした。
それでも文脈再現の方法によっては一定の効果が認められ、単語の一部をヒントとして提示した方法では約26%、当時の感情や状況を思い出す方法でも約32%ほどが回復しました。
つまり、記憶を蘇らせる効果は時間が経つほど小さくなり、記憶を刻んだ状況や感情が鮮明に再現できるほど効果が高まることを示しています。
また、この研究でもう一つ興味深いのは、文脈再現で一度回復した記憶が、その後どのように忘れられていくかということです。
実験チームが再び参加者を追跡し、文脈再現後に記憶がどのように変化したかを詳しく調べました。
すると、一度回復した記憶もまた新しい記憶と同じように徐々に薄れていくことがわかりました。
具体的には、4時間後に文脈再現で蘇らせた記憶は、その後24時間後や7日後に再びテストすると、最初に覚えた時とほぼ同じペースで忘却が進みました。
つまり、「精神的タイムトラベル」で記憶を蘇らせても、その後の忘れ方は元の忘却曲線とほぼ同じように進むということです。
言い換えれば、記憶は一時的に若返りますが、その後また元のように年をとって忘却が進んでしまうのです。