また、この研究は「記憶を再び蘇らせた後、その記憶が再び薄れていく様子」についても注目しました。
興味深いことに、記憶は精神的タイムトラベルで蘇った直後から、再び忘却の過程が新たにスタートします。
その忘れ方は、最初にその記憶を作った時とほぼ同じ「忘却曲線」をたどります。
つまり、「記憶を若返らせる」といっても、一度若返った記憶は再びゆっくりと時間と共に薄れていき、また同じ宿命を辿るということなのです。
こうした現象を研究チームは「若返りサイクル」と呼び、記憶を長期間保つ鍵になるのではないかと考えています。
では、この若返りサイクルをうまく利用すれば、私たちは記憶力をより高く維持できるのでしょうか?
研究チームによれば、記憶が薄れてしまう前に「精神的タイムトラベル(文脈再現)」を定期的に繰り返すことで、記憶の鮮明さを保つことが可能だと示唆しています。
記憶は時間が経てば経つほど再現が難しくなり、また蘇りの効果自体も徐々に低下します。
だからこそ、薄れ切ってしまう前に何度も再現を繰り返すことが重要になるのです。
ただし、この研究にはまだ解明されていない重要な課題も残されています。
今回の実験で扱った記憶は、単語や短文という非常に単純で人工的な記憶でした。
日常生活の中で私たちが持つ記憶は、感情や匂い、音楽、映像など、多彩で豊かな情報を伴っています。
そのため、実験室で行われたような記憶と実際の生活の中での記憶では、「若返り効果」の度合いや持続性が大きく異なる可能性があるのです。
実際に専門家からも、「実験室の単語や短文に比べて日常生活での記憶は感情や感覚が豊富であるため、今回のような実験結果がそのまま現実にも適用できるかはさらなる検討が必要だ」との意見が寄せられています。
私たちが実生活の中で大切にしている記憶や思い出が、果たして実験室と同じように再び鮮明になるかどうかを検証するためには、さらに日常に近い状況での研究が必要です。