今後、よりリアルな環境での検証が進むことで、記憶の若返り効果の実用的な活用方法が見つかるかもしれません。
今回の研究が示したもう一つの重要な視点は、「忘れてしまったと思った記憶も実は完全に消えているわけではない可能性がある」ということです。
私たちが普段「完全に忘れてしまった」と感じる記憶でも、脳の中にはまだその痕跡が残されていて、単に「アクセスが難しくなっているだけ」という可能性が指摘されています。
精神的タイムトラベルによって、記憶が作られた当時の文脈を再現すれば、脳内でアクセス困難になっていた記憶を再び呼び覚ますことができるかもしれません。
つまり、私たちの記憶は脳のどこかに眠り続けており、適切な方法を使えば再び掘り起こすことができるのです。
このような視点は、記憶についての私たちの理解を大きく変える可能性があります。
例えば教育の場では、この研究結果をもとに「効果的な復習方法」を見直し、記憶をより長期間保持する手法を開発できるかもしれません。
日常生活でも、大切な出来事や情報を定期的に思い出すことで、記憶をより鮮明に維持できる可能性があります。
さらには、加齢に伴う記憶力の低下や高齢者の認知機能のリハビリテーションにも、この精神的タイムトラベルの手法が役立つかもしれません。
今後の研究が進めば、より効果的で実践的な「記憶を蘇らせる方法」が確立され、私たちが記憶と上手に付き合うための新しい扉が開かれるかもしれません。
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元論文
Reinstating memories’ temporal context at encoding causes Sisyphus-like memory rejuvenation
https://doi.org/10.1073/pnas.2505120122
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。