そして長年の研究により、このような記憶の蘇りは「当時を思い出させるような状況や感覚」、つまり文脈性が大きなカギとなっていることが判明しています。

ある出来事を思い出せないとき、当時聞いた音楽や匂い、一緒にいた人のことを手がかりにすると記憶が蘇る、といった経験はないでしょうか。

記憶はそれを形成したときの環境や感情(=文脈)と密接に結びついているため、その文脈を再現することで忘れていた内容を思い出せる場合があります。

先のレトロゲームの例では音楽やコントローラーの感触、そしてゲームに付随する思い出が記憶の周囲に形成された「文脈性」を刺激し「昔取った杵柄」として当時の操作方法や攻略方法を思い出すわけです。

またいくつかの研究では、特に嗅覚が記憶の再現に最も大きな効果を与えるとする報告も存在します。

ただ、こうした「文脈を再現して記憶を蘇らせる」という方法が、一時的な効果にすぎないのか、あるいは記憶そのものの忘れ方に根本的な影響を与えるのかについては、十分な研究が行われていませんでした。

つまり、「その時だけ思い出してまたすぐ忘れてしまうのか」、それとも「記憶を完全に若返らせて再び忘れにくくするのか」が明確ではなかったのです。

そこで今回研究者たちは、「精神的タイムトラベル」という手法を用いて、記憶の蘇り現象を大規模に調べることにしました。

よく似たものに文脈再現というものがありますが、今回の研究ではあえて「精神的タイムトラベル」という表現がされています。

従来の文脈再現は「単に当時の環境を再現すること」が主な焦点でしたが、今回の研究で使われた精神的タイムトラベルは「過去の自分に精神的に戻る」という主体的な意識を強調しています。

つまり、単なる周囲の状況や刺激を再現するだけでなく、「自分自身の意識をその時間へと明確に移動させ、過去をまるで再体験するように」深く主体的に行うことが特徴なのです。