普通に考えれば「単純な敵」が老化の支配要員になりそうですが、実際にはハスラーの中のフレネミーこそが老化の主要因だったのです。
この理由として、研究者は心理的な要素を指摘しています。
単純に敵対的な相手なら心理的に距離を置きやすいため、ストレスを軽減しやすいのに対し、フレネミーは支援的な面もあるため心理的に離れづらく、慢性的なストレスが続き、細胞レベルでの老化を強める可能性があるのです。
さらにハスラー全体としての影響は生物学的老化のみならず精神的な健康(不安やうつ症状)や身体的な健康(肥満、体内の炎症反応)にも悪影響を与えていました。
単純な敵が老化に有意差がなかった理由をもう少し詳しく解説
「単純な敵が老化に対して統計的に有意な影響を示さなかったのに、なぜフレネミーを含めた『ハスラー全体』の影響が喫煙経験の有無に匹敵するほど大きいのか?」と感じる方もいるでしょう。まず重要なのは、この研究で「ハスラー」と呼ばれている人々には、「フレネミー」と「単純な敵」が含まれていることです。しかし、この二つのグループの人数は均等ではありません。実際の調査結果によれば、ハスラー全体の中でフレネミー(支援もするがストレスも与える)が約18.8%と圧倒的多数を占める一方で、純粋にネガティブな影響しか与えない単純な敵はわずか約5.1%に過ぎません。つまり、「ハスラー全体」の影響として示された数字は、主にフレネミーが大きな割合を占めていることで強く現れているのです。これは統計的にいうと、影響のない(またはごく小さい)グループ(単純な敵)と、非常に強い影響を与えるグループ(フレネミー)を合算しているため、全体として大きな影響が統計的に検出されている状態です。単純な敵が統計的に有意な影響を示さないのにハスラー全体では有意な影響があるというのは、一見すると不思議に感じられるかもしれませんが、統計的には「全体の影響がフレネミーの強い影響で引き上げられている」のです。したがって、この研究が強調していることは、「人間関係の中で最も注意すべきは、明確に敵と認識している人ではなく、むしろ支援とストレスの両方を与えてくる複雑な人々(フレネミー)である」ということになります。