特筆すべきは、コロネット作戦(関東平野上陸計画)後も降伏しない場合には、日本政府が分裂し、各地に軍事政権が出現する可能性が想定されていた点です。これは、ドイツと比較しても、非常に複雑かつ困難な占領計画を余儀なくされることを意味していました。

ドイツの場合とは違い、米軍は日本の海外領土や広大な太平洋進出地域を占領したわけではありません。このことは、「米軍は最後まで地獄の掃討戦をやる破目に陥る」、そして「対独戦終了後の極東への兵力移動がもたらす士気喪失がきっかけとなり、対日戦での米軍士気を完全崩壊させかねなかった」という深刻な懸念につながっていたのです。

パープルハート勲章と「バーベンハイマー」の記憶

予想された「本土決戦」に備え、米国政府は死傷者に授与する「パープルハート勲章」を何十万個も追加発注していました。実際には作戦が中止されたため、在庫は21世紀に入るまで使い切られることがなかったといいます。

図7 パープルハート勲章

このように、「本土決戦」の実行は、米国にとっても極めて大きなリスクを伴う選択肢だったのです。そのため、原爆投下という“究極の決断”が最終的になされた、という構図は決して一面的な説明ではないでしょう。

こうした背景を踏まえると、2023年の「バーベンハイマー」騒動にも一考の余地があるかもしれません。

この年の第96回アカデミー賞で、最多7冠を獲得したハリウッド映画は『オッペンハイマー』です。この映画は、原爆の開発責任者だったオッペンハイマーを描いたもので、日本では“広島・長崎の原爆投下を正当化したもの”と受け取られました。

しかも、同時に公開された映画『バービー』のキャラクターが笑っている画像を組み合わせた、「バーベンハイマー」という画像や動画も大いに流行・拡散してしまったのです。

バーベンハイマーの画像では、原爆を象徴するキノコ雲を背景にバービーが笑っています。これだけでも問題なのに、『バービー』の公式アカウントが「忘れられない夏になりそう」と返信。