自社アプリを中心とする消費者・ブランドネットワークの構築

 Ibottaの壮大な構想は、2012年にリリースされた自社モバイルアプリから始まった。仕組みはシンプルで、アプリ上には商品と合わせてそれぞれ特典内容が表示されており、その商品の購入後にレシートをアップロードするだけでキャッシュバックが受けられるというもの。

 商品メーカーなどブランド向けには実際に売れた分だけ報酬を支払う「成果報酬型」のモデルをとった。マス広告など成果が読みづらい媒体に広告費を払うことと比べ、ブランド側はリスクなく販売網を広げることができる。

 このアプリを同社は直接消費者にサービスを届けるという意味で「D2C」モデルと位置づける。しかしこのアプリ自体の成長は最終目的ではなく、むしろ後に来る「Ibotta Performance Network(IPN)」というビジネスを登場させるための周到に計画された「第1幕」であった。

ウォルマートも注目!レシートが宝の山に…5千万人が使うキャッシュバックアプリの画像3
(画像=Ibottaアプリから商品を購入するとキャッシュバックを受け取ることができる(S-1資料より引用))

 特に米国の成人の60%が給料ぎりぎりの生活を送っているといい、日々の出費を手軽に抑えられるこのアプリは、口コミの力もあり爆発的に広まった。このD2Cアプリを通じて、同社は下記3つのビジネス上極めて重要な資産を築き上げた。

** 1.消費者のユーザー基盤 ** :アプリは5000万以上のダウンロードを記録し、消費財ブランドにとっては魅力的な巨大ユーザー基盤を形成した。

** 2.消費財ブランドとのネットワーク ** :850社以上のクライアント、2400を超えるブランドと直接契約を結び、様々な消費財を購入できるプラットフォームになった。

** 3.膨大な行動データセット ** :レシート処理、購買認証、決済処理といったコア技術を開発・改良すると同時に、数億枚のレシートから得られる消費者行動に関する膨大かつ独自のデータセットを構築した。

 要するにIbottaは、自社アプリを通じて「キャッシュバック」を銘打てば多くのユーザーを惹き寄せられること、そのユーザー向けの商品提案を「成果報酬型」でできればブランド側の収益がリスクなく上がること、この2点を証明した。これがのちにWalmartなど巨大ブランドを自社ネットワークに呼び込む上での強い交渉力となる。