一貫してこれらのディールは「新興国の利益を米国に」という形を取っている。
無効化される第二解放の日
国内の都合だけでなく、日米間のディールは世界中の通商交渉の目線を一気に変えることになった。これで「第二解放の日」前に書簡で送られた関税リストは無意味になってしまい、「第二解放の日」後の先進国への相互関税率はすっかり15%に目線が揃うことになる。
EUとの通商交渉も「15%の相互関税」を巡って行われている。もちろん日本並みの「革新的資金供給スキーム」をEUが決断できる可能性は低く、EUはその代わりに日本が回避した「対米関税の引下げ」を当てることになるか。
米国側が概ね対EU相互関税15%を目線にしているのが判明した以上、EU側がまとまらなくて交渉延長になることはあっても、「第二解放の日」までに交渉が決裂して相互関税が30%になりEUが報復関税を導入するシナリオの可能性は低下してしまう。一方、全ての先進国が日本と同等まで関税を引き下げられるほどの条件を提供できるとも考えづらく、失望させるようなディールも今後出て来るだろう。
「第三解放の日」とも言うべき中国との関税猶予期限である8/12についても、ベッセントが早々と「90日延長が可能」と述べている。もっとも中国向け関税は現行の「IEEPA関税30% +多くの品目に設定された第一期トランプ政権の301条関税25%」から引き下げられる可能性は、フェンタニル対策が行われたか否かにかかわらず低い。
東南アジア諸国の「迂回輸出」品目への関税率は40%なので、それが中国への関税と逆転することはない。でなければ、東南アジアから中国への工場回帰を促すことになるからだ。
4月時点から本ブログが予想してきた着地点である「一律10% +中国60% +安全保障に絡む品目の個別関税」と比較して一律分が10%から15~20%まで引き上げられそうだが、極端に大きな変化ではない。ただ、歴史的にはかなり高い関税率となる。