どのようにして、「磁石につかない金属」からの微かな磁気信号をキャッチしたのか?

研究チームはまず、磁気を調べるための「耳」となる観測技術の開発に着手しました。

それにあたりベースとなったのが「磁気光学カー効果(MOKE)」という測定方法です。

磁気光学カー効果とは、磁性体(磁気を持つ物質)の表面にレーザー光を当てたときに、光の反射の仕方や偏光の方向が微妙に変化する現象です。

わかりやすくイメージすると、湖の水面が風で細かな波を立てるように、磁場の影響によって物質表面で反射されるレーザー光にもごくわずかな“偏光の変化”が生じます。

(※「磁場をかける➔磁石にくっつかないはずの金属の表面の電子に揺れ➔レーザー照射➔反射されるレーザーにも揺れ」という感じです)

このレーザー光の「揺らぎ」を詳しく観察することで、磁性体の内部で電子がどのように磁場に反応しているかを知ることができるのです。

しかし、このカー効果は鉄のように強い磁気を持つ物質では観察が容易でしたが、金や銅など磁気を持たないとされる物質ではその変化が小さすぎて、従来の方法では検出できなかったのです。

そこで研究チームが開発したのが、「フェリスMOKE」という新しい手法でした。

この「フェリスMOKE」では、従来のような巨大な電磁石や複雑な配線を使いません。

その代わり、小型の永久磁石を円盤状に並べ、それを高速回転させることによって、小さいながらも強く変化する磁場を作り出しました。

イメージとしては、遊園地の観覧車(英語で「フェリス・ホイール」)のように磁石が回転し、その回転によって磁場が一定の周期で強くなったり弱くなったりします。

さらに、この回転する磁石が生み出す磁場の中に、青色のレーザー光(波長440ナノメートル)を連続的に照射しました。

なぜレーザー光を使うかというと、レーザーは非常に精度が高く、わずかな光の変化も精密に検出できるからです。