今回の研究により、「磁石につかない」とされる金属でも、実は磁場に対して微かに反応していることが初めて光によって示されました。
私たちが日常で目にする金属、たとえば金や銅、アルミニウムなども、磁石にくっつかないという理由で、長い間「磁気とは無縁」と考えられてきました。
しかし今回の研究結果は、その常識を根底から覆すものとなりました。
ヘブライ大学エルサレム校のアミール・カプア教授は、この成果について「この研究は約150年前からの科学の難題を新たなチャンスに変えるものです」と述べています。
実際に、今回の実験によって初めて観測された微弱な磁気信号の中に、「スピン軌道相互作用」という、極めて興味深い量子力学の現象が関わっていることが明らかになりました。
この「スピン軌道相互作用」とは、電子の持つ「スピン」という磁気的な性質が、その電子が軌道上を動く運動に影響を与え合う現象のことです。
これまで「雑音」として見過ごされてきた小さな揺らぎが、実は電子のスピンの動きを通じて起こる磁気現象そのものである可能性が示されたのです。
この新しい知見がなぜ重要なのでしょうか。
それは、電子が磁場の影響下でどのように動き、エネルギーを失っていくかを理解する手がかりとなるからです。
例えば、磁石にくっつくような強磁性体が隣接する非磁性金属に触れているとき、磁性体からエネルギーが非磁性金属へと流れ出す現象があります。
この現象は専門的には「スピンポンピング」と呼ばれ、その際に磁性体が失うエネルギーを「ギルバート減衰」と言います。
今回の研究成果は、目に見えない磁気のエネルギーが金属の内部でどのように散逸していくかという、物理学の基礎的なメカニズムを解明する上でも重要な一歩となります。
さらに、この発見は未来のテクノロジー開発にも大きな影響を与える可能性があります。
現在、磁気メモリやスピントロニクス素子、そして量子コンピュータといった最先端の技術は、いずれも電子スピンの特性を活用することに重点を置いています。