しかしながら、現実にはこの光学ホール効果を可視光(人間が目にする光の波長)で観測しようとすると、その信号はあまりにも微弱で、これまでどんな高度な装置を用いても捉えることができませんでした。

ちょうど、大勢の人が騒いでいる部屋で、誰かが小声で話しているのを聞き取ろうとするのに似ており、従来の装置ではその小さな声を拾うだけの十分な「耳」が備わっていなかったのです。

ホール効果を発見したエドウィン・ホール自身も銀のホール効果を検出しようとしましたが、残念ながら成功しませんでした。

1881年に彼が論文の最後に書き残した言葉が、この難しさを象徴的に示しています。

「もし銀の効果が鉄の10分の1でもあれば検出できただろうが、そのような効果は観測されなかった」(E. H. Hall, 1881)。

これは単なる失敗の記録ではなく、後世の科学者たちに向けられた重要な課題として残りました。

こうした歴史的背景を持つため、「磁石につかない金属も微かに磁気に反応している可能性がある」という仮説は、物理学の中で150年近く解決されない謎として残り続けてきました。

そこで今回、ヘブライ大学エルサレム校のアミール・カプア教授を中心とする国際的な研究チームは、この長年の課題に挑戦することを決意しました。

研究者たちは次のような仮説を立てました。

「磁石につかない金属であっても、実は極めて微弱なレベルで磁気と相互作用をしているのではないか。そして、その微弱な磁気を、最新のレーザー光学技術を使えば初めて検出できるのではないか。」

この仮説を確かめるためには、これまでにない全く新しい測定技術の開発が不可欠でした。

果たして研究チームは、どのような新しい方法を用いて、この微かな磁気信号を実際に検出することができたのでしょうか?

磁石にくっつかない金属も磁場に反応することを実証

磁石にくっつかない金属も磁場に反応することを実証
磁石にくっつかない金属も磁場に反応することを実証 / Crdit:Canva