ワタナベ君:株式制度は未来型だというわけですね。現状にかなり問題があっても。平川克美氏の本のタイトルは、『株式会社の世界史: 「病理」と「戦争」の500年』(2020年)です。病理を抱えているのは同意しますが、まったくいらない、というのも飛んでいますね。

教授:成長経済下では役に立つが低成長・ゼロ成長下では格差を拡大するだけだから“いらない”という主張だ。株式制度が“拡大”の役に立っていないのは最近の増資に関する研究※2)でも示しておいた。

※2)濱田康行「資本主義の終焉と株式市場」(『地域経済経営ネットワーク研究センター年報』(北海道大学)第11号、2022年)。

ワタナベ君:『図説・日本の証券市場』の各年版に一年分の増資状況が示されています。前掲論文ではブルームバーグの資料を使って、増資発表時、公開時、そして年末の株価が示されています。

教授:私が示したのは2021年の状況で少し古いけど、状況はそんなに変化してないだろう。要するに、増資は“売り”なんだ。増資は資本主義拡大の具体的な現象なのに、株価は下がる。そもそも増資は”有望な投資案件がある”という会社の出すシグナルだ。「株主の皆さんお金を出して下さい」、「損はさせません」という訴えだが、現状はさっぱり。状況によっては時価総額も、株価の下げが勝ってしまって減少する。

資本を集積する場としての株式市場、その装置として株式制度が機能しなくなっている。それは1980年代になってからで、つまり第3楽章(『The NEXT』)で生じた。未来に引き継ぐにしても、これはなんとかしないとね。増資という本来の機能が失われれば株式市場は投機の場としての性質が前面に出てしまう。スタートアップもベンチャー企業もみんな投機の対象物になってしまう。

ワタナベ君:増資に関する研究はたくさんあります。興味深かったのは、増資によって得た資金の使い道の違いで事後の株価に差が出るという研究でした。増資で借金を返すと宣言すると株価は下がる。