話をスペインで発生した広域停電に戻す。停電当日の午前中は、安定した天候と平日であったことから電力需要は低調だった一方、太陽光発電は好調であった。その結果、スペインの卸電力市場価格はマイナスとなり、既設の太陽光発電設備は「お金を払ってでも電気を引き取ってもらう」状態に陥った。これにより、火力発電や水力発電といった、無効電力の供給が可能な調整力のある電源は市場から締め出される形となった。

その結果、系統の電圧を支える無効電力の供給能力を持つ電源が減少し、スペインの系統電圧は高止まりの状態で推移していた。スペインでは、火力発電について最低限の並列運転台数を確保するルールが存在するが、この日はスペイン南西部にある火力発電機が故障により停止し、予定していた並列台数を1台下回る事態となった。

なお、スペイン政府の報告書では「それでも無効電力の調整力は十分にあった」としているが、実際には余力が減少しており、わずかな調整ミスでも系統電圧が過昇するリスクがある状態であった。

4月28日、午前10時以降に系統電圧が通常よりも大きく変動する現象が見られた(図2)。詳細は省くが、系統運用者はその都度、前述の無効電力の調整機能を活用して状況に対応していた。

図2 4月28日午前中のスペイン各地の電圧値グラフ(スペイン政府報告書) 10:40頃から電圧変動が大きくなり、12:18以降手に負えなくなる

しかし、12時03分に周波数の変動を伴う大きな電圧変動が発生し、その後、12時16分および12時19分にも周波数・電圧の変動が続いた。さらに、12時32分にはスペイン南東部グラナダにある火力発電所が停止。その後、フランスとの連系送電線が停止し、スペイン系統では周波数の低下と電圧の上昇、発電機の停止が連鎖的に起こり、ブラックアウトへと坂道を転げ落ちるような事態に至った(図3)。

図3 12:32ころの系統周波数と系統電圧(スペイン政府報告書) 発電機停止と周波数低下の相互作用で、停電範囲が広がっていった。南西部の太陽光、風力発電もこの時に停止した