果たして、この仮説は正しいのでしょうか?

答えを得るため研究者たちはまず、音が伝わる仕組みと空気の性質との関係を改めて調べました。

私たちが言葉を発すると、その声は空気の中を音波として伝わりますが、この音波は空気の性質によって伝わり方が大きく変化します。

例えば冷たく乾燥した空気では、私たちの声帯(声を出すために振動する器官)の表面が乾燥してしまい、振動がスムーズに起こりにくくなります。

すると、声帯を振動させて出す母音や鼻音などの響きの豊かな音(有声音)を長くきれいに保つことが難しくなります。

それに対して暖かい空気の場合は、高い音域(高周波数)の音をよく吸収します。

そのため、摩擦音や破擦音と呼ばれる「シュー」「シャッ」といった高い周波数を多く含む子音(無声音)が伝わりにくく、結果として「ア」「オ」など低く響く母音や、響きの豊かな鼻音などのほうがはっきりと遠くまで届きやすくなるのです。

寒冷地で暮らす人は、冷たく乾燥した空気を吸い込むのを避けるため、口を大きく開けずに話すことが多く、そのため言葉が詰まった印象になります。

一方で暖かい地域の人々は口を広く開けて発声できるため、自然と響きの豊かな母音を多用した言語になる傾向があると考えられます。

このように、音の響きやすさや遠くまで届く度合いを言語学では「ソノリティ」と呼んでいますが、研究者たちは「暖かい地域ほどソノリティの高い(響きの豊かな)言語が多く、寒冷地では逆に子音を多く含むソノリティの低い言語が多くなるのではないか」という予測を立てました。

そして、この予測を検証するため、ヴィヒマン博士ら国際研究チームは、世界規模で言語の響きと気温の関係を調べるという前例のない挑戦を始めました。

研究チームは世界各地の9,179種類にも及ぶ言語データを収めた「ASJP(Automated Similarity Judgment Program)」と呼ばれる言語データベースを利用しました。