例えば高地では空気が薄く、肺の圧力を使った独特な破裂音(エジェクティブ音)がよく使われることが報告されています。

また、降水量や湿度の低さが母音の比率に影響を与える可能性が指摘されており、乾燥地域ほど母音が減ってソノリティが低くなる傾向が別の研究で報告されています。

こうした例からも、人間の言語の音が環境に影響される可能性が徐々に認識されるようになってきました。

その中でも、最近特に注目されたのが、「気温」と「言語の響きやすさ(ソノリティ)」の関係です。

これまでにも、小規模な研究で「暖かい地域の言語ほど響きやすくなる傾向がある」と指摘されていましたが、調査された言語数が100程度と少なく、十分な根拠にはなっていませんでした。

そこで今回、ドイツ・キール大学の言語学者ソーレン・ヴィヒマン博士らの国際チームは、より大規模で包括的な調査によってこの仮説を検証しようと考えたのです。

もし気温が言語の響きに本当に関係しているなら、それは世界中の多くの言語で一貫して現れるはずです。

果たして、この仮説は正しいのでしょうか?

9179言語を分析して分かった『気温と声』の意外な関係

9179言語を分析して分かった『気温と声』の意外な関係
9179言語を分析して分かった『気温と声』の意外な関係 / 図は世界9179種類の言語それぞれがどれくらい「響きやすいか(ソノリティが高いか)」を色の違いで示した地図です。地図上で赤色に近いほど言語の響きが良く(母音などの響きやすい音が多い)、青色に近いほど響きが抑えられています(子音が多く、響きが控えめ)。この地図を見ると、赤道付近や南半球の暖かい地域では赤色の点が多く分布しており、つまり響きやすい言語が多く話されていることがわかります。とくにポリネシアなどの南太平洋の島々(オセアニア地域)やアフリカでは、この傾向が際立っています。逆に、北米の北西海岸(カナダから米国ワシントン州付近)では青色の点が多く、子音が連続するなど響きの少ない言語が使われていることが示されています。ただし、中央アメリカや東南アジアなど、暑い地域であっても青色(響きが抑えられた言語)の点が見られる例外的な場所もあります。こうした例外の理由として、その地域の言語の系統的な特徴や歴史的な接触などが影響している可能性があります。/Credit:Temperature shapes language sonority: Revalidation from a large dataset