それから四半世紀以上が経過し、Jリーグは60クラブを超えるまでに拡大。全国各地に多様なダービーマッチが生まれている。多くは後発クラブ同士によるローカルで平和な対戦であるが、横浜FMやガンバ大阪など歴史あるクラブは、時に揉め事の中心となることもある。
2025年現在、J1リーグでは「横浜ダービー(横浜F・マリノス vs 横浜FC)」「大阪ダービー(セレッソ大阪 vs ガンバ大阪)」「神奈川ダービー(川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、横浜FMなど)」「東京ダービー(FC東京 vs 東京ヴェルディ)」があり、J2では「静岡ダービー(ジュビロ磐田 vs 藤枝MYFC)」「愛媛ダービー(愛媛FC vs FC今治)」、J3では「信州ダービー(長野パルセイロ vs 松本山雅)」、そしてJFL所属の栃木シティとJ3の栃木SCによる「栃木ダービー」も注目カードとなっている。

健全なライバル関係の時代(1993~1990年代後半)
Jリーグの理念の根幹にあったのは、企業名を廃し地域名を冠することで地元に根差す「地域密着」である。この理念は、サポーター文化の黎明期においてポジティブに機能した。当時のダービーマッチは、敵対心よりも「おらが町のクラブ」を応援する郷土愛や、新たに誕生したプロサッカーリーグを共に創り上げていくワクワク感が勝っていたと言える。
マリノスとフリューゲルスの横浜ダービーも、Jリーグの成長を可視化できる重要な一戦であった。家族や友人とスタジアムに足を運び、純粋に試合の勝敗に一喜一憂する。そこには、現在のダービーに見られるような殺伐とした雰囲気は希薄であった。サポーターはまだ現在ほど組織化されていなかったため、集団的な対立構造が生まれにくかったという側面もある。その根幹には、Jリーグという新しい文化を共に育てようというクラブの垣根を越えた一体感が存在したからである。Jリーグが掲げた理念と、ファン・サポーターがそれを受け入れた上で牧歌的なスタジアムの雰囲気を創出させていたことも大きい。
