しかし、新しい分類が実際に意味を持つのか、つまりMER11のDNA配列が本当に遺伝子のスイッチ(エンハンサー)として働くのかを確かめなければなりません。
この答えを得るため研究者たちは、「レンチウイルスを用いた多数並列レポーターアッセイ(lentiMPRA)」という新しい実験手法を使うことにしました。
この方法は、調べたい何千種類ものDNA配列をそれぞれレポーター遺伝子に連結して細胞に導入し、それぞれの配列がどのくらい遺伝子の活動を高めるのかを一度に測定できるものです。
具体的には、ヒトのiPS細胞(体の様々な細胞に変化できる能力を持つ細胞)と、そこから分化した初期の神経細胞に、MER11由来の約7,000種類のDNA配列を導入しました。
すると、特にMER11_G4という新しいグループの配列が、他のグループと比べて非常に強力な遺伝子活性化能力(エンハンサー活性)を示すことが明らかになりました。
このことは、MER11_G4が、ヒトの発生の初期段階で重要な役割を果たす可能性を強く示しています。
さらに詳しく調べると、MER11_G4の配列には、他のグループには存在しない特徴的な「モチーフ」と呼ばれる特定の配列パターンがありました。
このモチーフは、転写因子(遺伝子をオンにするタンパク質)が結合する目印として機能し、どの転写因子が結合するかによって、そのDNA配列が働く場所やタイミングが決まります。
研究者たちは、このMER11_G4のモチーフが、ヒトやチンパンジーのような大型類人猿には存在するものの、それより下位のサル(例えばマカク)には見られないことを発見しました。
さらにその違いは、たった1つのDNA塩基が欠失するというごく小さな変異によって生まれたことも突き止めました。
つまり、このたった一つの変異が、新しい遺伝子スイッチを生み出し、ヒトやチンパンジーの発生において重要な役割を担う可能性が出てきたのです。