結果として、循環死ドナーから提供可能な心臓であっても活用されずに多くの患者が心臓移植を待ちながら亡くなっている状況が続いています。

このような現状を変えるには、低コストで簡便かつ倫理的に受け入れやすい方法で停止した心臓を保存・利用する技術が求められていたのです。

心臓を冷やし、洗い、8時間保つ新技術

心臓を冷やし、洗い、8時間保つ新技術
心臓を冷やし、洗い、8時間保つ新技術 / Credit:Canva

倫理的な課題と経済的な課題を両方クリアするには、一体どのような方法を取ればよいのか?

そこで開発された技術が、「迅速拡張高酸素保存法(Rapid recovery with Extended Ultra-oxygenated Preservation)」、略称でREUP法と呼ばれる方法です。

この手法も生命維持装置を停止させるなど、ドナーの死亡が医学的に確認された直後から処置が開始されます。

まず心臓につながる上行大動脈をクリップでしっかりと閉じ、心臓を他の臓器や脳の循環から完全に切り離します。

これにより、心停止後の臓器回復処置中に血液や保存液が脳に流れ込む危険を確実に防ぎました。

次に行ったのが、心臓を「新鮮なまま保存する」ための重要なステップです。

研究者たちは、酸素を豊富に含ませた特別な低温の保存液を準備しました。

この保存液は、赤血球(酸素を運ぶ血液細胞)やカルジオプレジアという心筋保護薬などを含む複雑な溶液で、心筋に十分な酸素と栄養を供給するように設計されています。

研究チームは、この保存液を体外循環回路にセットして、ゆっくりと心臓に送り込みました。

送り込む際の圧力は、平均で約80mmHgという人間の体内で血液が流れるのに近い自然な圧力に設定されました。

およそ10〜12分間かけてじっくりと送り込まれた保存液は、停止した心筋の隅々にまで十分に行き渡り、心筋全体が摂氏4℃という冷たい温度で安定して保存される状態を作り出しました。