さらに心臓から脳へと続く血管は毛細血管を含めて無数にあるため、主要な血管を締め付けても僅かながらに脳への血流が起こるとする意見もありました。
実際、NRP法はイギリス、スペイン、ベルギー、オーストラリアなど一部の国では許可され、実施されていますが、ドイツなど多くのヨーロッパ諸国や一部のアメリカの州では許可されていません。
NRPを許可する国は、この方法によって移植可能な臓器が増え、多くの命を救うという利益を優先しています。
一方、許可しない国は、上述の倫理的な問題を重視し、人道的見地から拒否しているのです。
(※日本では、そもそも循環死後の心臓提供が認められておらず、NRP法も現在の法律や倫理的な基準から見て受け入れられる状況にはありません。)

もう一つのアプローチは心臓用保存装置を使用します。
生命維持装置を意図的に停止させ、心臓停止を確認し死亡認定するまでは同じです。
しかしこちらの方法では心臓を体外に取り出して専用の灌流マシン(通称「心臓の箱」)に繋ぎ、移植まで心臓を拍動させながら維持する方法です。
先ほどの体内常温灌流法(NRP)が患者の体内で心臓を再起動する方法であるとしたら、こちらの方法は移植する心臓を一度患者の体内から外部に取り出し、そこで再起動させるものとなります。
ドナー体内で心臓を動かさないため倫理的負担はやや軽くなりますが、この手法を実現させるための装置が非常に高価で操作も複雑です。
また心臓を生かすと言っても体内にあったときとは状況が大きく異なるため、保存状態は決して完ぺきとはいえず、その状態で心臓の再起動を行うのはリスクを伴います。
さらにこの方法では心臓以外の臓器を同時に維持できないため、他の臓器提供にはつながりにくいという制約も指摘されています。
以上のように、体内常温灌流法(NRP)は倫理面で、心臓用保存装置は実用面でハードルがありました。