参政党の躍進を支える力は、その支持層の多様性にある。しかし、その多様性こそが、党の未来における深刻なリスク、すなわち「党の公式イデオロギーと、支持者が求めるものの乖離」を生み出している。

党執行部が掲げる国家主義的なイデオロギーと、多様な支持者が個々の関心事(食、健康など)から入ってくる現実との間には、深い溝が存在する。この「乖離」の構造を、具体的な政策を例に解き明かす。

OTC薬問題に見るイデオロギーの矛盾

この「乖離」と「矛盾」を象徴するのが、第2章でも触れた【OTC類似薬の保険適用除外】問題である。

直感的には、この「患者いじめ」とも言える政策は、健康への不安を抱える人々を、既存政党から参政党へと向かわせる絶好の追い風になるはずだ。参政党が「国民の健康を守る」と訴え、この3党合意を厳しく批判すれば、多くの支持を得られるだろう。

しかし、現実はより複雑である。なにしろ、参政党自身も、この「OTC類似薬の保険適用除外」を党の公約に掲げているからだ。

ここに、参政党が抱える根本的な矛盾が露呈する。なぜ、「身体の政治学」を掲げ、健康不安層を惹きつけてきたはずの党が、彼らの負担を激増させる政策を支持するのか。その理由は、党が持つ複数のイデオロギー側面を理解することで見えてくる。

「小さな政府」「自己責任」という思想:参政党のイデオロギーの根底には、国家による過度な介入を排し、個人の自立を促すリバタリアン(自由至上主義)的な思想がある。この立場からすれば、国民皆保険制度は「社会主義的」であり、個人の健康は本来、自分で管理すべき「自己責任」の領域となる。保険適用を外すことは、医療を国家の管理から「解放」し、個人の選択に委ねる、あるべき姿への一歩と映る。 反・既得権益(医療・製薬業界):彼らはこの政策を、「保険診療に依存し、不必要な薬や診察を繰り返すことで利益を得ている」と見なす医療業界や製薬業界への打撃と捉える。患者の負担増というデメリットよりも、巨大な既得権益を破壊するという「正義」を優先する。 財政保守・国家主義:「このままでは国民皆保険制度が破綻し、日本という国家がもたない」という危機感を煽り、制度維持のためには個人の負担増もやむを得ない、という「国家のため」の論理を持ち出す。これは「国守り」を掲げる彼らにとって、極めて親和性の高い理屈である。

このように、参政党は「OTC薬問題」を、患者負担の視点からではなく、「国家財政の健全化」「既得権益の打破」「個人の自立」という、より大きな物語の文脈で正当化するのである。