優れた戦略も、心を捉える「物語(ナラティブ)」がなければ機能しない。参政党の強さは、現代人の不安に寄り添う、シンプルで力強い思想にある。

彼らが提示する世界観は、「かつて素晴らしかった日本が、戦後、特にグローバル化によって外国勢力や国内の支配層に奪われてしまった」という「神話」から始まる。

この「奪われた日本を取り戻す」という壮大な物語は、支持者に分かりやすい現状の「診断」、憎むべき「敵」、そして自らを国を取り戻す「物語の主人公」へと昇格させる心理的効果をもたらす。

第三節:「日本を取り戻す」ための三本の矢

では、具体的に何を取り戻すのか。その思想は三つの「主権回復」に集約される。

食と健康の主権:食の安全や医療の選択は、グローバル基準ではなく国家が責任を持つべきだ、という「健康主権」の考え方。 教育と文化の主権:自虐史観やジェンダーフリー教育を「外国からの価値観の押し付け」と断じ、日本の伝統と誇りを取り戻そうとする「文化戦争」。 安全保障と外交の主権:最大の脅威を中国共産党と名指し、自主防衛と対中強硬姿勢を訴える。

第四節:橘玲ワールドへのアンチテーゼ

参政党の物語は、なぜこれほど魅力的なのか。それは、作家・橘玲氏が描く「知能と金融資産を武器に、自己責任で生き抜け」という冷徹なグローバル資本主義の現実に対する、全身全霊のアンチテーゼだからだ。

橘玲:「世界標準の競争を生き抜け」 参政党:「グローバル化から身を守る防波堤を築こう」 橘玲:「頼れるのは自分だけだ」 参政党:「『日本人』という仲間がいる」

冷徹な自己責任社会に疲弊した人々に対し、「大丈夫、ここにはまだ温かくて誇り高い共同体がある」という甘美なメッセージを届ける。彼らのナショナリズムとは、グローバル資本主義に怯える人々がたどり着いた「精神的な安全保障」なのである。

第3章:日本のポピュリズム──コインの裏表としての「れいわ新選組」