そこから先の宇宙の物語は、これまで知られてきたものと同じです。
高温で密度の濃い宇宙は、少しずつ膨張して冷えていき、最初は素粒子、やがて原子が作られ、恒星や銀河が形成されて、最終的に私たちが生きている現在の宇宙が生まれたわけです。
つまり、現在の一般的な宇宙の歴史の理解は、
①インフレーション(真空エネルギーによる急激な膨張)
↓
②再加熱(ビッグバンと呼ばれる高温高密度状態の開始)
↓
③宇宙の膨張と冷却
↓
④恒星や銀河の形成
↓
⑤現在の宇宙
という流れなのです。
私たちの宇宙の真の始まりを理解するためには、もはやビッグバンだけを見ていては足りません。
その前の時代、インフレーションという宇宙の「出生前」の出来事を見つめることが必要なのです。
そしてこれまでの理論では、暗黒物質も他の物質と同様にビッグバンの時に空間から出現したと考えられていました。
しかし新たな理論は暗黒物質に限って言えばビッグバン以前のインフレーション時代に、他の物質に先駆けて誕生したと提唱されています。
ではなぜ暗黒物質だけフライングして宇宙に誕生することになったのでしょうか?
なぜ暗黒物質は他の物質より先に宇宙に存在したのか?

なぜ暗黒物質だけフライングして宇宙に誕生することになったのでしょうか?
テンカネン博士らの研究が導き出した新理論によれば、その理由は、宇宙誕生前の特殊な状況にありました。
従来の理論では、宇宙のすべての物質はビッグバンの瞬間、つまり宇宙が高温高密度の「火の玉」状態になったときに誕生したと考えられていました。
しかし今回の研究では、暗黒物質はその「火の玉状態」が始まるよりも前、インフレーション期にすでに作られていた可能性が示されたのです。
インフレーション期の宇宙は、いわば「粒子が存在しない純粋なエネルギーの場」でした。
そのエネルギーの源となったのが、「スカラー場」と呼ばれる特別なエネルギー場です。