研究チームは「過去の研究者たちはこの最もシンプルな可能性を見落としていた」と指摘しています。
また驚くべきことに計算の結果、このスカラー場由来の暗黒物質モデルは、現在の宇宙で観測される暗黒物質の分布や宇宙背景放射(ビッグバンの名残の微弱な光)にも矛盾しないことが示されました。
特に、暗黒物質と通常の放射(光子など)のゆらぎの関係(アイソカーブ摂動)も、宇宙マイクロ波背景放射の厳しい観測制限内に収まることが確認されています。
さらに、この仮説が正しいかどうかを検証する方法も存在します。それは宇宙の構造形成(銀河や銀河団ができる過程)が通常想定されるより“盛ん”になるということです。
暗黒物質がインフレーション期から存在した影響で、わずかながら銀河の分布に特徴的なゆがみ(ゆらぎの痕跡)が残ると考えられます。
言い換えれば、暗黒物質が本当にビッグバン以前に生まれたのなら、現在の宇宙における銀河の配置パターンが「その証拠」を秘めているはずなのです。
こうした結果から、研究チームは暗黒物質がビッグバン以前から存在し得ることを最も簡潔なモデルで実現してみせたと言えます。
しかもこのシナリオでは、暗黒物質が通常の物質と重力以外で相互作用しない(だからこそ実験で見つけにくい)という性質が自然に導かれます。
新たな未知の力や複雑な粒子理論を仮定する必要もありません。
「余計なもの」を足さずに謎を説明できるという点で、このモデルのシンプルさは大きな魅力であり、説得力となっています。
新理論が示唆する宇宙論の革命

今回の研究では、「暗黒物質がビッグバン以前のインフレーション期に生まれた可能性がある」という全く新しい仮説が示されました。
この新しい仮説が本当に正しいなら、私たちは暗黒物質に対する理解を根本的に見直さなければなりません。
なぜならこれまでは暗黒物質を「ビッグバンと共に誕生した物質」だと当たり前のように考えてきたからです。