このスカラー場というのは、空間全体に均一に広がっているエネルギーの海のようなもので、量子的な効果で小さく揺れ動きます。

インフレーションが進むと、スカラー場は宇宙全体でほぼ一定の状態(安定した状態)に落ち着きます。

このとき、スカラー場は絶えず細かな「量子ゆらぎ」を起こしていました。

量子ゆらぎとは、一見均一に見えるエネルギーの海の中にほんの小さな凹凸がランダムに生じる現象です。

今回の研究では、このヒッグス粒子とは異なる未知のスカラー粒子が暗黒物質を構成している可能性を考察しています。

ビッグバンで生まれた物質(例えば電子や陽子)は電磁気力など様々な力で相互作用しますが、ビッグバン前に生まれた暗黒物質はそれらとは無縁で、インフレーションで存在していた重力だけと相互作用する――すなわち重力以外には姿を現さないというわけです。

やがてインフレーションが終わると、宇宙が急激に膨張することで、この小さなゆらぎは拡大され、特定の場所にエネルギーが偏った領域を作り出します。

こうして生じたスカラー場のエネルギーの偏りが、後に暗黒物質としての役割を果たすようになったのです。

さらに興味深いのは、このスカラー場由来の暗黒物質の誕生は、特別な条件や設定を必要としない自然なプロセスだという点です。

研究者たちが数式を使って計算した結果、スカラー場のエネルギーゆらぎはインフレーション期に「安定した平衡状態」を作り出し、その後の宇宙にとってちょうど良い量の暗黒物質が自動的に生成されることがわかりました。

言い換えれば、スカラー場が宇宙の初期状態として自然に存在したならば、暗黒物質が宇宙に満ちている現在の状態はごく自然な結果であり、細かな調整をする必要は一切ないということなのです。

従来の多くの暗黒物質理論では「初期にこれくらい暗黒物質があったはず」という仮定を置かなければならなかったのに対し、このモデルでは特別な設定を加えなくても暗黒物質が適切な量存在する計算結果が得られたのです。