イメージするなら、空間そのもののエネルギーが爆発的に粒子へと姿を変え、一瞬にして宇宙は熱くて密度の高い状態に切り替わるのです。

では、なぜこの真空エネルギーが粒子に変わってしまったのでしょうか?

その秘密は、真空エネルギーの不安定さにあります。

インフレーション期の真空エネルギーは、例えるなら「丘の頂上にそっと置かれたボール」のようなものです。

一見すると静かで安定しているように見えますが、わずかなきっかけがあれば劇的変化を起こします。

実際、宇宙誕生の瞬間の真空エネルギーも、ほんの些細な量子ゆらぎによって、この安定性を失ったと考えられています。

真空エネルギーが安定を失うと、それまで空間を満たしていたエネルギーは一気に解放され、別の状態へと移り変わります。

このエネルギー解放の過程で、エネルギーの一部が「粒子」という形へと変換されました。ここで重要なのは、アインシュタインの有名な方程式『E=mc²』です。

エネルギー(E)は質量(m)に変換可能であり、エネルギーが大量に放出されると、それが粒子という具体的な形となって現れるのです。

この真空エネルギーから粒子が現れる現象こそが、「再加熱(リヒーティング)」と呼ばれています。

再加熱とは、まさにインフレーションが終わった瞬間に起きた「宇宙の再誕生」の出来事と言えるでしょう。

それまで物質のない「空っぽ」の空間だった宇宙が、熱くて密度の濃い「物質で満たされた状態」へと劇的に転換されたのです。

再加熱で現れた粒子は、非常に高温で高密度の火の玉状態を形成しました。

これが現代宇宙論で言うところの「ビッグバン」です。

つまり、ビッグバンは宇宙が無から突如として現れた出来事ではなく、真空エネルギーという空間のエネルギーが粒子に姿を変え、宇宙が物質で満たされた出来事だったのです。

言い換えれば、私たちが昔から耳にしてきたビッグバンとは、宇宙の始まりそのものではなく、インフレーションという急膨張が終わった後、宇宙が粒子で満たされて高温高密度な「火の玉」状態になったその瞬間を指すのです。