ほんのわずかなタンパク質の変化が、細胞内の遺伝子たちの「合奏」のバランスを小さく乱した、と言えるでしょう。
では、実際に生きた動物の体内でこの変異を起こすと何が起きるのでしょうか?
研究チームは遺伝子編集技術(クリスパー/CRISPR)を使い、マウスのGLI3遺伝子をネアンデルタール人型の変異(マウスではR1540Cに相当)に書き換えたマウスを作成しました。
生まれてきたマウスは、一見すると普通のマウスとまったく変わらず、健康的に成長していました。
しかし、マウスの骨格を詳しく調べると、はっきりとした「ネアンデルタール風」の変化が現れていたのです。
まず目についたのは頭蓋骨の変化でした。

ネアンデルタール人型の遺伝子を持ったマウスは通常のマウスより頭蓋骨が大きく、丸みを帯びた形状になりました。
また、胸を囲む肋骨にも変化が現れました。
通常のマウスは13対の肋骨を持つところが、このマウスでは14対の肋骨を持つ個体が確認されました。
肋骨の形もやや湾曲しており、胴体全体の形にも微妙な違いが見られました。
さらに腰の骨(腰椎)の数も通常は6個あるところが、このマウスでは5個に減少していたのです。
このような頭蓋骨の形や胴体の特徴は、これまで研究者が化石から明らかにしてきたネアンデルタール人の特徴とよく似ています。
ネアンデルタール人は現代の人類に比べて丸みのある頭や、深くて広い胸を持っていました。
つまり、今回のGLI3遺伝子の変異を持ったマウスは、わずかに「ネアンデルタール人らしさ」が体に現れたと考えられます。