しかしここで注意が必要です。
「FODMAPに含まれる糖類が全て悪い」という誤解をしてはいけません。
FODMAPの中には、腸内環境を整え、むしろ腸の健康に良い影響を与える糖類も含まれています。
例えば水溶性食物繊維などは腸内細菌のうち健康に役立つ善玉菌を増やし、多様な腸内環境を育てる働きを持っています。
つまり、重要なのはどの糖類を選び、どの糖類を控えるべきかを自分自身の腸内環境や体質に合わせて適切に判断することなのです。
今回の研究は、「ある人にとっては炎症を悪化させる糖でも、別の人にとっては問題ないか、むしろ有益かもしれない」という、個人の体質や腸内環境に基づいた栄養アプローチの重要性も示しています。
このように個人に応じた食事療法を考えるアプローチを、近年では「Precision Nutrition(個別化栄養療法)」と呼び、医学や栄養学の分野で注目されています。
自分の腸内環境をよく知り、その特性に合わせた食事を選ぶ時代が到来する可能性があるのです。
さらに興味深いのは、この研究が単なる食事療法に留まらず、将来的には炎症性腸疾患の新たな治療法の開発にもつながる可能性を示していることです。
今回明らかになった「腸内細菌→代謝物(トリプタミン)→免疫細胞(マクロファージ)」という炎症を引き起こす経路を標的にすることで、新たな治療戦略が生まれるかもしれません。
例えば、トリプタミンを作り出す特定の腸内細菌を抑えるための抗菌剤や、炎症を抑える代謝物を作り出すような腸内細菌を増やすための食品やプロバイオティクスの開発も期待できます。
腸内細菌をうまくコントロールすることで免疫反応の暴走を抑え、腸の炎症を抑えることができるかもしれないのです。
これはまるでSF映画のような話に聞こえるかもしれませんが、実際にマイクロバイオーム(腸内細菌叢)を調整することで病気を治療する研究は、世界中で積極的に行われています。