そのような事例ではほんの少しであっても、そこでソーシャル・キャピタル概念を応用することにはほとんど問題がないように思える。

コミュニティとの関連はどうか

キャピタルの前にソーシャルを付加する伝統に立脚し、経験的に支持される証拠を揃え、その実践的な潜在力を際立たせたパットナムは確かに成功した。

具体的な指標には、社会参加や団体的参加などの集団レベルのデータと、相互性の規範や信頼といった関係面の心理的要素が組み合わされている。この前提から獲得された有益な情報が各方面で効果を発揮するので、世界銀行やOECDでさえもこの概念の積極的な活用を行った。

社会科学の概念が国際機関の興味を引いたのは、社会指標や人間開発指標などわずかしかなかった歴史をみると、ソーシャル・キャピタル概念への期待の大きさが分かる。

限定的な使用

しかし、いくら各分野における仮説が魅力的であっても、結局はその概念から公共政策に関する新しい結果を引き出すのは困難なように思われる。なぜなら、たとえば少子化支援策がソーシャル・キャピタルに直結するのではないからである。むしろ、ベクトルは逆向きであり、地域においてはソーシャル・キャピタルの存在が子育て支援策を有効に導きやすい。

経済的パフォーマンスとソーシャル・キャピタルの関連性の研究成果からは何がもたらされたか。多くの場合、ソーシャル・キャピタルの3つの指標である信頼性と公民意識、それに団体への参加の効果は裏付けられたのか。信頼性と公民意識には経済的パフォーマンスのプラス効果は示されたが、パットナム仮説とは逆に、団体参加(結びつき)が成長に与えるはっきりした効果は見つけ出せない結果もあるように思われる。

4都市の近隣関係はどうであったか

たとえば、図1はこの10年間で行なった私の「科学研究費」による4都市調査結果の一部であるが、通常は大都市の「近隣関係」が希薄であり、小規模な町村の方が親しい近隣関係が存在しているから、助け合いなどの「社会関係資本」が充実しているという常識が共有されている。