進化論から言えば、アザラヨザルのオスが授乳できるように進化しても問題はないでしょう。
先に述べたようにオスの授乳が起こる遺伝的ハードルは低いため、少しの遺伝子変異でオスが授乳するように変化してもおかしくありません。
ですがアザラヨザルのように硬い一夫一妻制が守られているパターンにあっても、授乳は常にメスの役割となっています。
この結果は、オスに授乳させるような進化が、何らかの圧力によって妨げられている、言葉を変えれば「オスが授乳するように進化してしまった種はすぐに滅んでしまった」ということを意味します。
では「オスの授乳」を妨げる圧力の正体とは何なのでしょうか?
「オスの授乳」が起こらない理由を数学的に解き明かす
オスはなぜ授乳しないのか?
一般人も専門家も誰もが1度は考えるこの疑問に対し、ヨーク大学の研究者たちは数学的手法を使って挑みました。
研究者たちはまず、オスの授乳が栄養の面で利点になるにもかかわらず起こらない理由について、母乳の負の要素に着目しました。
といっても自然界において母乳は乳児を育てるのに必要不可欠であるのは間違いありません。
これまでの研究により、母乳の中には多くの有用な細菌が含まれており、乳児は母乳を通じて初期の腸内細菌叢を確立することがわかっています。
さらに母乳に含まれる細菌には母乳の消化を助ける細菌も含まれていることが示唆されています。
ですが母乳に含まれる細菌の全てが善いものではありません。
大人が免疫力で耐えられるものの、乳児に与えれば健康を害したり死なせてしまうような悪性の高い細菌(以下、悪玉菌と記載)も、確率的に含まれています。
研究ではこの母乳に含まれる悪玉菌に着目し、両親が授乳できる場合と、母親のみが授乳できる場合を比べてみました。
といっても難しいものではありません。
以下の図はその比較を簡単な図で示したものになります。
