旅の最後は、何度も行き来した国道6号を浪江町からいわき市に南下して締めくくることにした。

国道6号沿いの変わらないものといえば、線量を掲示する情報表示板だ。現在は線量の数値を表示するだけだが、かなり以前は「窓閉め敢行」など文字表示もしていた記憶がある。いずれにしても、表示されている数値は健康に影響を与えない線量だった。

国道6号 双葉町高万迫 情報表示板

情報表示は現在でも常磐自動車道上やパーキングエリア内で行われているが、私だけでなく他のドライバーも以前のように気にしなくなり、施設内で数値を凝視している人をまったく見かけなくなった。

常磐自動車道湯ノ岳パーキングエリア・下り(福島県いわき市) 2018年6月

常磐自動車道ならはパーキングエリア・下り(福島県双葉郡楢葉町) 2018年6月

いったい私たちは何を怖がっていたのか。どれほどの人が、表示されたり報道された数値の意味を理解していたのか。この空回りしていた不安が被災地に与えた影響に気付いていた人は少なく、その不安も忘れ去られてしまった。

原発事故の直後、首都圏のスーパーマーケットには「東北産は扱っていません」のほか、婉曲に「関西産が入荷しました」と張り紙されていた。福島産の農林水産物が放射線量検査を受けてから出荷されていたにもかかわらず、これらは長期にわたって店頭に陳列されなかったのだ。

このとき青果市場の関係者は、消費者が買ってくれないだろうと思った。小売業者も同じように考えた。しかし、消費者の不安はとても曖昧なものだった。

楢葉町で国道6号から脇道に入ってしばらく走っていると、モール風の商業施設に地元資本のスーパーマーケットがあった。中に入ってみると、お客さんが福島県の産地名が表示されている野菜や魚や肉を品定めしていた。

国道6号に戻ると5分ほどで道の駅ならはに到着した。物産館では、つくばナンバーの自動車から降りて入店した人たちが、地元産の野菜やきのこを買い物かごに入れてレジで会計をしていた。