また、「右ローランド蓋部」や「左補足運動野」などの領域が複雑になることも、物事を計画的に進めたり、注意を維持したりするなどの実行機能が改善する兆しになるかもしれません。
ただし実際の研究では、これらの脳領域が複雑になったからといってADHDの症状そのものが明らかに改善したわけではありませんでした。
そのため、研究者たちは「脳表面の複雑化が確かにポジティブな影響をもたらしている可能性はあるけれど、ADHDの症状が実際に良くなるかどうかは、まだはっきりとは言えない」と慎重に考えているのです。
つまり脳の構造変化と症状の変化は、それぞれ異なるメカニズムで生じている可能性があるということです。
加えてこの研究が示したのはもうひとつ興味深いことがあります。
それは、ADHD患者の中でも特にリスクを冒しやすいタイプの性格「冒険的衝動性」が、脳内の特定の領域、特に右中帯状回と右後頭葉上回という部位の灰白質体積と関係している可能性です。
脳の中帯状回は、感情や認知的な意思決定に関わる場所とされています。
一方、後頭葉上回は視覚情報を処理する領域です。
このふたつの部位の灰白質の体積が、「冒険的衝動性」という特性と相反する関係を持つことは、ADHDの人たちがリスクに対してどのように反応し、なぜ特定の行動パターンを示すのかという謎を解く鍵となるかもしれません。
もちろん、この研究にはいくつかの限界があります。
ひとつは対象者が26名と少数だったことで、より大規模な研究を行えば異なる結果が得られる可能性があります。
また、この研究は薬物治療によって脳が変化したことを明確に示しているわけではなく、最初から脳にこうした構造的特徴があった人々が薬物治療を選択したという逆の可能性も否定できません。
加えて、薬を服用していないグループには「不注意優勢型」のADHD患者が多かったということも結果に影響しているかもしれません。