まさに、物理の常識を裏切るような現象でした。

さらに驚くことに、この秩序が壊れる瞬間にアタカマイトの温度が劇的に下がるという現象も観察されました。

磁場をかけただけで、まるで冷蔵庫のスイッチが入ったかのように、結晶が自ら冷えてしまったというわけです。

これは「磁気冷却効果(磁気カルオリック効果)」という現象で、実は最近、省エネ型の新しい冷却技術として注目されている仕組みです。

しかし、アタカマイトで見られたような強力な磁気冷却効果は、これまでほとんど観測されたことがありませんでした。

この不思議な現象のメカニズムを明らかにするため、研究チームは数値シミュレーションという方法を使って結晶の内部で何が起きているかを詳しく解析しました。

すると、この現象のカギを握るのはアタカマイトに存在する二種類の銅イオンであることが分かりました。

結晶の中で銅イオンは「のこぎりの刃」のような形で並んでいますが、その「刃先」にある銅イオンが、磁場によってすばやく揃ってしまうことが分かりました。

この磁石の揃い方は、普通なら秩序を生み出しそうなものですが、アタカマイトの場合、これが逆に裏目に出てしまいます。

「刃先」の銅イオンが磁場方向に揃うと、それまで弱く繋がっていたチェーン間の「磁石の絆」が断ち切られ、結晶内部の磁石たちが互いに連携できなくなり、三次元的な秩序が一気に崩壊します。

専門的にはこの現象を「次元還元」と呼びます。

つまり、磁場をかけたことによって、アタカマイトの磁石たちは三次元の連携が壊れてバラバラになり、一気に次元が下がった(1次元の鎖状になった)状態になったというわけです。

さらに不思議なのは、この秩序の崩壊に伴い、本来ならば乱雑さ(エントロピー)が増えるはずなのに、アタカマイトの場合は逆にエントロピーが急激に減少したことです。

これは磁石(スピン)の揺れ動く自由が磁場によって制限され、磁石たちが静かな状態になってしまったためです。