この現象のしくみをもっとよく理解するため、研究者たちは実際に存在するアタカマイトという鉱物を使って、磁場をかけた時に磁石の秩序がどのように変化し、その結果としてどれくらいの「冷却効果」が現れるのかを詳しく調べることにしました。

はたして、この「悩める磁石たち」は強い磁場をかけると、私たちにどんな驚きを見せてくれるのでしょうか?

磁場をかけるだけで勝手に冷却されるという現象は本当にみられたのでしょうか?

磁石を近づけるだけで冷えていく「磁気冷却」の仕組み

磁石を近づけるだけで冷えていく「磁気冷却」の仕組み
磁石を近づけるだけで冷えていく「磁気冷却」の仕組み / Credit:川勝康弘

「悩める磁石たち」が磁場によって本当に冷えるのか?

この謎を解明するため、研究者たちはまず「悩める磁石」の結晶、アタカマイトのサンプルと「超巨大磁石」を用意しました持ち込みました。

場所はドイツ・ドレスデンにあるヘルムホルツ強磁場研究施設。

ここでは最大58テスラという、とてつもない磁場を発生させられます。

58テスラというのは、病院のMRI(約3テスラ)の20倍近くも強く、地球の磁場の100万倍以上という強烈な強さです。

ちょっと想像しにくいですが、いわば「超巨大な磁石」を使って、小さな結晶にどんな変化が起きるのかを観察したのです。

実験では、この強力な磁場をアタカマイトの結晶の「c軸」と呼ばれる特定の方向(結晶軸)に沿ってかけ、その間に「温度がどう変わるか」「内部の磁石がどこまで揃うか」を同時に測定しました。

温度の変化は熱容量を調べれば分かりますし、磁石の揃い具合は核磁気共鳴(NMR)という“超精密聴診器”のような装置で確かめられます。

するとおもしろいことが起こりました。

磁場を徐々に強めていくと、約20.3テスラを超えたあたりから結晶の中で秩序だった磁石の並びが崩れはじめ、21.9テスラあたりで完全にバラバラになってしまったのです。

普通の磁石なら、磁場を強めれば強めるほど整然と並ぶはずなのに、アタカマイトでは逆に“お行儀崩壊”が起きたわけです。