スピン系のエントロピーが減少すると、その分を補うために結晶の磁石部分(スピン系)が結晶の原子振動(格子系)の熱エネルギーを取り込み、結果として格子の温度が下がります。

つまり、磁場をかけることで磁石たちの自由を奪った結果、アタカマイト自身が自発的に冷却してしまった、という驚きの仕組みだったのです。

こうして研究者たちは、磁場によって磁石の秩序が破壊されるという予想外の現象を発見しましたが、次なる疑問は「なぜアタカマイトでは普通とは逆の現象が起きたのか?」ということです。

磁場で「秩序を壊して冷やす」—新発見が示す磁気冷却の未来と可能性

磁場で「秩序を壊して冷やす」—新発見が示す磁気冷却の未来と可能性 
磁場で「秩序を壊して冷やす」—新発見が示す磁気冷却の未来と可能性  / Credit:Canva

今回の研究によって、磁場によって磁石の秩序が壊れると同時に物質が自発的に冷えるという、極めてユニークな現象が現実に存在することが実証されました。

この結果は、基礎的な物理学研究においても、そして未来の実用的な技術においても、非常に興味深く重要な発見だといえます。

まず基礎物理学の観点から見ると、この研究では「量子臨界点」と「次元還元」という二つの重要な現象が同時に観測されました。

簡単にいうと、アタカマイトという鉱物が、ある磁場(約21.9テスラ)を境にまったく別の性質を持った状態へと突然変化したのです。

このような現象は「量子相転移」と呼ばれ、特に磁石の世界では理論的には知られていましたが、実際の物質でこれほど鮮やかに確認されることは稀でした。

特に「磁石は磁場をかけると普通は整然と並ぶ」という私たちの直感を覆し、磁場を強めることで逆に磁石同士の秩序が崩壊し、物質の温度が下がるという結果には科学者たち自身も驚いたはずです。

さらに興味深いことに、磁場によって物質の中で磁石の繋がり方が3次元から1次元へと劇的に変化する「次元還元」という現象も観察されました。