詳しく観察すると、マクロファージは死んだがん細胞を取り込んだあと、『Upd3』という特別な炎症性サイトカインを放出していることが明らかになりました。

このUpd3は、人間の炎症反応で中心的な役割を果たす『インターロイキン6(IL-6)』という物質に非常に似ています。

マクロファージから放出されたUpd3は、その周囲にいる生きたがん細胞に働きかけ、がん細胞の増殖を促す仕組みを作ってしまっていました。

研究者たちはさらに、Upd3ががん細胞にどのような影響を与えるのかを調べるために、遺伝子の働きを調整できる特殊な実験を行いました。

具体的には、マクロファージがUpd3を作れないように遺伝子を操作したり、マクロファージががん細胞を取り込む能力そのものを低下させたりしました。

すると、驚くことに、これらの操作をした腫瘍では、Upd3の放出が抑えられ、生き残ったがん細胞の増殖が明らかに遅くなったのです。

このことから、がんの進行にはマクロファージががん細胞を貪食することと、それによって放出されるサイトカインUpd3が大きく関与していることが確認できました。

また、このUpd3が、がん細胞自身にも「さらなるサイトカインを放出せよ」という指示を出し、次々と連鎖的にサイトカインを増やしていくという仕組みも明らかになりました。

この連鎖反応は『正のフィードバックループ』と呼ばれ、まるでスイッチを入れたら止まらない機械のようにがん細胞の増殖を促進してしまいます。

これまでマクロファージががんを掃除するはずだと思われていたのに対し、実際にはがんを育てる「肥料」を作り、腫瘍を助けてしまうという驚くべき仕組みが浮かび上がったのです。

さらに研究チームは、マクロファージががん細胞を取り込めないように遺伝子を調整した場合には、この増殖の連鎖が断ち切られ、腫瘍の成長が抑えられることも確認しました。

これは逆に言えば、マクロファージによる貪食やサイトカインの放出を抑えることが、将来的な治療につながる可能性を示しています。