つまり、マクロファージの貪食を適切にコントロールしたり、Upd3やIL-6の働きをブロックしたりすることで、がん細胞が連鎖的に増殖を続ける仕組みを断ち切る治療法につながるかもしれません。

さらに、この研究成果はがんの早期診断や予後予測にも役立つ可能性があります。

具体的には、がん組織内でどれだけ死細胞が溜まっているか、またマクロファージがどれくらい活性化しているか、そしてサイトカイン(IL-6)の濃度がどれほど高まっているかなどを詳しく調べることで、これからどれくらいがんが積極的に増殖していくのかを評価できるかもしれません。

これまで見過ごされがちだった『がん組織内部の免疫の活性化』が、実は病気の進行にとって重要な指標になる可能性があるのです。

『掃除屋』が『肥料』になってしまうという意外な発見は、がん治療において免疫細胞を単純な攻撃役として使うだけではなく、時にはその働きを抑えるという逆転の発想が必要であることを示しています。

がんという複雑な病気に対し、免疫細胞が敵にも味方にもなり得るという今回の新しい視点は、これからの医学やがん研究において極めて重要な意味を持つでしょう。

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参考文献

死んだがん細胞の捕食ががんの爆発的増殖を促進 ~マクロファージの”貪食” ががんを育てる意外な仕組みをハエで発見 新たな治療法の確立に期待~
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2025/06/post-845.html

元論文

Macrophages promote tumor growth by phagocytosis-mediated cytokine amplification in Drosophila
https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.05.068

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。