教授:JTBはコロナ禍で需要が減り赤字が続き累積損失が1,000億円を超えた。その一部を埋めるために23億4,000万円の資本金を1億円にすると臨時株主総会で決めた。背に腹は代えられず株主も同意した。でも、焼け石に水だよね。JTBはかつて大学生の就職先で人気1位だったこともある会社だけにショックだったね。
ワタナベ君:話題を自社株買いに移しましょう。似たようでもあるのですが、どう違うのでしょう?
教授:減資は、株式数はそのままで資本金の額が減る。一株当りの資本金額(昔の額面)という概念が生きていれば、それは減るが、それは現行では問題にされない。自社株買いは会社の剰余金を使って市場(市場外も)で株式を買う。だから株式数はこの段階では変わらない。
買われた株式は会社の金庫にしまわれた型になるので金庫株と呼ばれる。金庫株は、議決権行使や配当請求が停止する。やがてそれも償却となると株式数は減る。
ワタナベ君:そうなると重要な効果が出てきますね。株式市場が個々の会社の評価に使っているのは多くが“一株当り”の指標ですから。それが改善すれば、株価を上げる効果がある。株価を上げるということは個々の株主の利益になるから、自社株買いは一種の株主優待にもなるという訳ですね。
教授:わかり易く言えば、減資は赤字続きで困ったときに、自社株買いは余裕のある企業が株価を上げたいときや、株主優待の商品プレゼント以外で株主を喜ばせたいときに。でも株価が気になるのはわかるけど、会社が自分の会社の株を買ってやがて償却してしまうなんて、やはりこの流行はまさに逆行です。
ワタナベ君:図2は最新の自社株買いの推移を示しています。2025年は5月までの数字ですが、総額12兆6,000億円。実行した会社は785社。この中には有名企業、例えば三菱商事(1兆円)、信越化学工業(5,000億円)、ファナック(500億円)等が多く含まれています。ねらいはなんでしょう?

図2 自社株買いの動向 出典:日本経済新聞、2025年6月12日