しかし一方で、今回の研究はまだ多くの謎を残しています。
特に重要なのは、眠っている脳がなぜ外の世界とのコミュニケーションを可能にするのか、その詳しい仕組みがまだ分かっていないということです。
研究者が考えている面白い仮説の一つに「部分的な睡眠状態」というものがあります。
これは脳全体が完全に眠っているわけではなく、一部の領域は眠っていても、他の領域は起きているかのように働いている可能性があるという考え方です。
実際、夢を見ているときの脳波は、眠りと覚醒の両方の特徴を併せ持つことが知られています。
今回の実験で夢の中にいる被験者が質問を理解し、回答を返した背景には、脳内の一部が起きているときに近い状態になっているからかもしれません。
もしこの仮説が正しければ、私たちが思っている以上に、脳の「眠り」と「覚醒」は明確に区別できない複雑な現象であることになります。
これらの疑問に答えるためには、さらに詳しい研究が必要です。
ただし、今回の成果によって夢という不思議な現象が科学的に研究可能な対象となり、研究の可能性は一気に広がりました。
もしかしたら未来の世界では、私たちは自分の夢の中で自在にコミュニケーションを取れるようになっているかもしれません。
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元論文
Real-time dialogue between experimenters and dreamers during REM sleep
https://doi.org/10.1016/j.cub.2021.01.026
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部