合計36人の被験者が選ばれましたが、実験に参加するための重要な条件がひとつありました。
それは、夢を見ている間に「これは夢だ」と気付く「明晰夢」の経験がある、または事前にそのための訓練を受ける必要があるということでした。
まず被験者は、明晰夢を見るためのトレーニングや、夢の中で意識があることを知らせる方法を学びました。
具体的には、夢の中で左右に眼球を動かしたり、特定の筋肉(例えば頬や眉間)を動かすなどして、意識があることを現実世界の研究者に伝える練習を重ねました。
準備が整うと、実験室で実際に睡眠中の脳波や眼球運動、筋肉の活動を計測する装置を付け、被験者が眠るのを待ちました。
特に「レム睡眠」という、夢を見ているとされる睡眠段階に入ったことが確認されたら、いよいよ実験開始です。
本当に「夢の中」だったの?──実験の裏側をのぞく
「夢を見ている人と会話できた!」という驚きの研究結果ですが、これを聞いて「もしかして被験者は起きていて、ズルをしていたのでは?」と思った方もいるかもしれません。実は、この研究では被験者が本当に眠っているか、それとも目を覚ましてしまったのかを、脳波を使って入念に確認しています。一般的に、夢は「レム睡眠」と呼ばれる特殊な睡眠状態で起こることが知られています。レム睡眠中は、脳は活発に活動していますが、筋肉は完全に力が抜けて動かなくなります。このときに脳波を測ると、目覚めているときとは明らかに異なる特徴的なパターンが現れます。研究者たちは、被験者の頭部に電極を貼りつけて、脳の電気的活動(脳波)、目の動き(眼球運動)、顔やあごの筋肉の動きを記録しました。こうして測定したデータをもとに、専門家が睡眠の状態を判定します。具体的には、3名の専門家が、記録された脳波を見て、それがレム睡眠中なのか、それとも覚醒しているのかを評価しました。もし被験者が起きてズルをしていたとしたら、筋肉活動や脳波のパターンが覚醒状態と同じになってしまいます。そうなると専門家が見れば一目瞭然なのです。