羽石:渡辺先生がおっしゃることは、その通りだと思います。 ここでのポイントは「何をもって、その人の成果とするか」を明確に定義することです。

最終的な売上のような結果(Result)だけではなく、その結果につながるための、個人がコントロール可能な行動(KPI:重要業績評価指標)を設定し、その達成度を評価の軸にします。 リーダーが部下に「何をしてほしいのか」を具体的に示し、その実行度合いを評価するのです。

例えば、会社の業績が悪化したとしても、それは従業員の責任ではなく、彼らに設定したKPIや戦略が間違っていたという経営陣の責任です。 従業員が決められたKPIを達成しているなら、彼らはきちんと評価され、報酬も上がるべき。 この「腹決め」がリーダーには求められます。

上司が素人だったら?:業務理解不足による不適切な目標設定

玉村:次に、上司の業務理解が不足している場合の目標設定についてお伺いします。 識学では上長と部下が目標について合意し、それが評価基準になると聞いていますが、上長が部下の業務を理解していない場合、不適切な目標を設定してしまうリスクはないのでしょうか。

例えば、富士通が日本でいち早く大規模な成果報酬制度を導入した際、多くの社員が達成しやすいように低い目標を設定するようになり、結果として会社全体の業績悪化の一因になった、という話があります。 識学のメソッドを導入することで、このような事態が起きることはないのでしょうか。

羽石:ありがとうございます。 まず、ご質問の前提に一つだけ重要な違いがあります。 識学では、目標は上司と部下が「合意」して決めるものでは、基本的にはありません。 部下から情報収集はしますが、最終的に何をやるか「コミット(決定)」するのは上司です。 会社の目標はトップから順に下ろされてくるものであり、下の者が「これをやります」と決める構造にはなっていないからです。 これにより、ご指摘のあった「社員が自分に有利な低い目標を設定する」という事態を構造的に防いでいます。