戦略が人間の営為であることは不変でしょう。同時に、科学は万能ではありません。システム分析の数学的道具は、冷戦期におけるアメリカの安全保障戦略の形成において、使い物にならなかったと批判されています。
戦略への経済学的アプローチは、1960年代中頃には、ブローディ氏が不安を感じる程に知的な袋小路に入り込んでしまいました。戦略を完全な科学にする探究は無謀な試みなのでしょう。方法論に導かれる純粋な理論志向の学術では、政策的有用性において、行き詰まってしまいそうです。
戦略と実践
ここで問われるべきは、「戦略の科学」が国家の指導者に目指すべきゴールとそこにたどり着く方法を示せるかどうかです。
そのために求められる1つの有力なアプローチは、アレキサンダー・ジョージ氏が擁護した「条件付き一般化(conditional generalizations)」、すなわち変数間の蓋然性を解明するというより、戦略の成功や失敗を生み出す特定のパターンを明らかにする努力ではないでしょうか(Paul C. Avey and Michael C. Desch, “The Bumpy Road to a ‘Science’ of Nuclear Strategy,” in Daniel Maliniak, Susan Peterson, Ryan Powers, and Michael J. Tierney, eds., Bridging the Theory-Practice Divide in International Relations, Georgetown University Press, 2020, pp. 205-224)。
抑止や強制外交、危機管理といった戦略の成否は、それが実施される状況のみならず、それぞれの対象国の指導者に与えられたさまざまな要因(ストレス、リスク計算、時間の制約など)に左右されることをアレキサンダー・ジョージ氏は、一貫して強調していました。