しかし近年の脳科学や心理学の研究は、人が何かを学ぶ能力は、本人の努力や環境の影響だけでなく、生まれ持った脳の特性にも大きく左右されることを明らかにしています。

つまり、教育を改善し、社会全体で学力の格差を減らすためには、生徒個々人が持つ脳の特徴や状態を科学的に理解し、それに応じた適切なサポートを提供する必要があることを示しているのです。

一方で、だからといって誰にでも同じ刺激を与えれば必ず成績が上がるという単純な話ではないことにも注意が必要です。

今回の研究を単純解釈し過ぎて、頭に筋トレ用の電気刺激パッドをつけるのは絶対にやめてください。

実は過去に行われた別の研究では、すでに高度な数学能力を持っている数学専門家(大学の教授)に同じ刺激を与えたところ、逆に計算能力が低下してしまった例も確認されています。

この現象は、既に完璧に調整されたエンジンに余計な手を加えると、かえって動きが悪くなるのと似ています。

つまり、元々うまく機能している脳内のネットワークに対しては、刺激が逆効果になる可能性があるわけです。

こうした事実は、脳への刺激が全ての人に一律に効果をもたらす万能薬ではないことを示しています。

重要なのは、誰の脳が刺激を必要としていて、どのような脳の状態の人に、どのような種類や強さの刺激を与えると効果的かを個別に見極めることです。

実際、研究チームも今後さらに細かな研究を進め、刺激の効果を個人ごとに最適化していく必要があると指摘しています。

現在、市販されている脳刺激デバイスも少数ですが存在します。

しかし、そうした一般向け製品の多くは、科学的な根拠が十分でないものも多く、実際に使っても本当に期待するような効果が得られるかはわかりません。

今回のような研究がさらに進展すれば、近い将来、個人の脳の特性に合わせて調整した「オーダーメイドの学習向上デバイス」が実用化される可能性もあります。