ネットワークの結びつきが弱かった参加者たちがこの刺激を受けると飛躍的に計算能力を高め、その効果は最大で29%もの成績向上を達成したのです。
(※成績の上昇は2種類の課題のうちの前者の計算手順を実行して答えを導くタイプの問題で効果がみられました。一方で暗記問題では効果がみられませんでした)
実際その上昇幅は驚異的で、刺激を受けたおかげで、もともと成績が低かった人たちが一気に「得意な人たち」と肩を並べることができました。
これは前頭前野の刺激は特に「数学が苦手な人」に大きな助けとなったことを示しています。
では前頭前野に対する刺激が計算問題の成績を大きく改善したのでしょうか?
研究を率いたカドッシュ教授は、この刺激の効果を「確率共鳴」という現象で説明しています。
「確率共鳴」とは一見難しい言葉ですが、実際には私たちの日常にもよく見られる現象の一つです。
例えば、ラジオの受信が弱く、ノイズが混ざった状態を想像してください。
普通ならノイズがあると聞き取りづらくなり、かえって邪魔になるはずです。
ところが、信号があまりにも弱すぎて、もともと何も聞こえなかった場合には、微かなノイズが混ざることでかえって音声が聞き取れるようになることがあります。
つまり、本来弱くて認識できないような信号に、適度なノイズを加えることによって、その信号がより明確に感じ取れるようになるのです。
この原理を脳の活動に当てはめるとどうでしょう?
私たちの脳は、多数の神経細胞(ニューロン)が互いに信号を送り合うことで働いています。
しかし、数学が苦手な人の場合、特に前頭前野と頭頂葉という数学を解くときに重要な領域間の神経回路の結びつきが弱いため、信号がうまく伝わらずに処理能力が低下していると考えられます。
弱い信号は、それだけでは目的地である他の神経細胞までうまく伝わらないため、思考や計算といった複雑な作業が困難になるわけです。