脳への刺激で数学的能力を高めることができるの?
この答えを得るため研究者たちは、まず18歳から30歳までの若者72名を対象に、数学の学習能力と脳の状態の関係を調べることからスタートしました。
研究チームが特に注目したのは、脳の中の前頭前野(おでこの奥にある領域)と頭頂葉(頭のてっぺん付近の領域)という2つの領域の連携(ネットワーク)です。
まず実験前に参加者全員の脳をMRIでスキャンし、この「前頭前野–頭頂葉ネットワーク」の結びつきの強さを測定しました。
次に、参加者たちは5日間にわたり、1日約30分の数学トレーニングを受けました。
トレーニング中、一部の参加者には「経頭蓋ランダムノイズ刺激(tRNS)」と呼ばれる、ごく弱い電流を脳に流す刺激が行われました。
この刺激を受ける場所によって参加者は3つのグループに分けられました。
あるグループは前頭前野に、別のグループは頭頂葉に刺激を与え、残りのグループは実際には電流を流さない(プラシーボ)刺激を受けました。
参加者が解いた数学の問題は2種類あります。
1つは特定の計算手順を実行して答えを導くタイプの問題、もう1つは単に答えを丸暗記するタイプの問題です。
たとえるなら前者が頭を使って筆算や方程式を解くような問題であるのに対して、後者は計算というより歴史年表の暗記に近いものと言えます。
5日間のトレーニングが終わった後、再び参加者たちの脳をスキャンし、数学の問題を解く能力がどう変化したかを分析しました。
すると驚くべき結果が現れました。
まず刺激を全く受けなかった対照グループや頭頂葉への刺激を受けたグループでは、「前頭前野–頭頂葉ネットワーク」の結びつきが弱かった人ほど、やはり前者の計算問題の学習に苦戦していました。
ネットワークが弱い人(数学が苦手な人)は、努力しても問題を解く力がなかなか向上しなかったのです。
ところが、前頭前野に刺激を受けたグループでは全く違う結果が出ました。