特に数学の学習においては、前頭前野(おでこの奥にある脳の領域)と頭頂葉(頭のてっぺん付近の領域)という2つの領域が連携して働くことが非常に重要であることが、これまでの研究で明らかになっています。

前頭前野は、問題をじっくり考えて解く際の集中力や、情報を整理する能力を担っています。

一方の頭頂葉は、覚えた知識や方法を素早く引き出し、応用する力を支えています。

数学の問題を解く時、この2つの領域が互いにうまく連携できれば、計算をスムーズに進めることができます。

しかし、生まれつきこの2つの領域の連携が弱い人も多くいます。

その場合、どれだけ努力をしてもなかなか数学が得意にならないということが起こり得るのです。

そこで、イギリスのサリー大学やオックスフォード大学を中心とした研究チームは、あるユニークなアイデアを思いつきました。

「もし脳内の領域同士の連携が弱い人でも、外から刺激を与えてその連携を強化できれば、数学の苦手を克服できるのではないか?」というものです。

このアイデアは、学習の苦手な理由を本人の努力不足ではなく、脳内の神経回路のつながりという生物学的要因に求めるものでした。

実際のところ、脳に外部からの刺激を与えることで、人の数学の苦手意識や成績を改善することは本当に可能なのでしょうか?

脳への『微弱電気刺激』で数学の成績が29%アップした

脳への『微弱電気刺激』で数学の成績が29%アップした
脳への『微弱電気刺激』で数学の成績が29%アップした / 図は、「脳のネットワークの結びつき(前頭前野と頭頂葉間のつながりの強さ)」と、「数学の計算学習の成績」がどのように関係しているかを示しています。 この図でわかった重要なことは、もともと脳内で前頭前野と頭頂葉が強くつながっている人(脳の結合強度が高い人)は、特別な刺激がなくても計算問題の学習成績が良い傾向にあるということです。反対に、結びつきが弱い人(脳の結合強度が低い人)は、普通に勉強しただけでは成績が伸びにくく苦労してしまいます。 しかし興味深いことに、この「結びつきが弱い人たち」に脳への微弱な電気刺激(tRNS)を行ったところ、成績が大きく改善されました。特に前頭前野(dlPFC)に電気刺激を与えたグループでは、もともと脳の結びつきが弱くて苦手だった人が刺激によって、強い結びつきを持つ人と同じくらいの成績に追いつきました。一方、頭頂葉(PPC)に刺激を与えたグループや刺激なし(sham)のグループでは、こうした改善効果は見られませんでした。 つまり、この図は、数学の計算学習において脳の前頭前野と頭頂葉のつながりの強さが非常に重要であり、結びつきが弱い人でも、前頭前野に適切な刺激を与えることで、学習の苦手さを克服できる可能性を示した結果を直感的に伝えているのです。/Credit:Functional connectivity and GABAergic signaling modulate the enhancement effect of neurostimulation on mathematical learning