ここで製造業の業務標準化や動作分析の知識があれば、どの作業がムダか、動線をどう短縮できるか、などの発想が自然に出てくる。さらに、セルフオーダーシステムや、券売機といった仕組みを導入する案も出てくる。
このように、知識が多いということは、発想の引き出しが多いということ。現場で起きた問題に対して、別の角度から見る力が高まるのだ。
先ほど触れた在庫管理を改善した話も、飲食店に製造業の考え方を持ち込んだことで成功した例だ。
現場と知識をつなぐ大切さ
ここまで、仮説を立てる、人や勘に頼らない意思決定、発想力の源泉と、経営知識の持つ3つの側面を考えてきた。総じて重要な点は、知識が生きるかどうかは、現場に持ち込んで使えるかどうかで決まるということだ。
そのためにまず必要なのは、とりあえずやってみることだ。完璧に理解してから使うのではなく、教科書通りにまず試す。そこから微調整すればいい。
これは星野リゾートの現場改革のスタイルでもあり、実行と修正の繰り返しによって知識を現場仕様に変えていくアプローチである。
また、知識は正解ではなく問いのきっかけとして活用すべきだ。採用ファネルの例など、問いを細かく分けられるかどうかが、打ち手の精度を分ける。
知識は、現場の勘や経験と対立するものではない。むしろ、経験と勘を補強する裏付けとして機能する。
経営者自身が知識と現場をつなげる係になる
では、実際に知識を経営にどう取り入れるべきか。答えは、学びながら動く文化をつくることにある。
大げさなことをする必要はない。たとえば、経営者が最近知った理論を会議で一つだけ共有してみることからでいい。
「在庫回転率って言葉知ってる? 売れてる商品ほど、たくさん持っていいって意味らしいよ」
そんな一言が、現場の意識を変える最初の火種になる。
重要なのは、知識を押し付けないこと。「これをやれ」ではなく「こういう考え方もある。試してみようか」と問いかけることで、現場と一緒に考える姿勢が伝わる。