ここで活きたのが、製造業で使われる在庫管理の知識で定期発注と定量発注という仕組みだ。定期発注は、毎週決まった曜日に一定量を補充する方式。定量発注は、在庫が一定の水準を下回ったときに、あらかじめ決めた数量を発注する方式だ。

これらの考え方を販売データに合わせて整理し直すことで、在庫が適正化された。キャッシュフローは改善され、欠品も減少した。人や勘に頼らない仕組みを作ることができたのだ。

日本電産永守氏のことば

日本電産の創業者であり、伝説的経営者の永守重信氏は高専卒の技術者出身でありながら「経営は学問である」と断言し、自ら京都先端科学大学に私財を投じて経営学部を設立した。そこでは、実学としての経営理論を教えることに重きを置いている。

そんな経営知識を重視する永守氏の信条も「勘と根性では、経営の限界が来る」だ。

売上・利益・人材・品質といった複雑な経営課題を、感覚だけで処理し続けることは不可能だと理解している。だからこそ、経営者は仮説の持ち方、因果の整理、意思決定のための型を持たねばならない、と。

たとえば、日本電産では品質トラブルが起きた際に、なぜこの現象が起きたか、を構造で分析し、PDCAの理論通りに検証・再発防止策を講じる仕組みが定着している。これは、知識を教科書ではなく、組織文化としての思考の習慣に落とし込んでいる。

永守氏の経営姿勢は、経験と知識の融合にある。現場を知るからこそ、知識が生きる。知識があるからこそ、現場の精度が上がる。そのことを、身をもって体現している経営者である。

経営知識は発想力の源泉となる

さらに、経営知識は発想力の源泉となると言える。経営の現場では課題が複雑化しており、経験だけでは対応しきれない場面が多い。そんなとき、異業種の知識が代替案、別の視点として武器になる。

たとえば、ある飲食店で人手不足が深刻になったとき、人を増やす以外の打ち手が思いつかず困っていた。