これだけ制度が改変され続けると、事業環境は不透明になり、とくに長期的な投資回収についての見通しは立ちにくくなる。全体としての経済効率が高い電力需給体制が形成されるともとても期待しがたい。実際に、設備形成は不足しており、節電要請が毎年のように発出されるに至っているなど、安定供給は損なわれている(表4)

表4 政府による近年の節電要請

期 間 要請主体 対象エリア 予備率見通し 備考

2022/12 – 2023/3 政府(7年ぶり) 全国 3 % 台 数値目標なしの「節電協力」呼びかけ

2023/7 – 8 資源エネルギー庁 東京エリア 日中予備率 <5 % 7/1–8/31 節電要請+8日間の追加供給力対策発動

2023/12 – 2024/3 政府 全国 3 % 程度 前冬に続き連続要請

電力システム改革の帰結として、事業者数が増えたことは確かである(表5)。だが、これが電気代の低減やサービスの向上といった形で消費者に恩恵をもたらしているかは全く定かではない。むしろこれまでのところ、電気料金は上がり続けているし、安定供給はかえって損なわれている。

表5 電気事業者数

フェーズ・年 主な制度・出来事 垂直統合型 小売専業 送配電専業 発電専業 メモ

乱立期1933 (昭和8) 「電力戦」最盛期 818社 ― ― ― 需要地の配電と水力開発が1社内で完結。

統合期1942 (昭和17) 配電統制令 0 0 9社 配電 1社(日本発送電) 全国412社を強制統合。

独占期1951 (昭和26) 電気事業再編成令 9社(72年以降10社) ― ― (各社自社発電) 地域独占の“民営九(十)電力”体制が発足。

自由化前夜1994 制度未改正 10社 ― ― 自家発・IPPは数十社規模 部分自由化前、実質独占状態が続く

部分自由化末期2015.10 PPS最終カウント 10 774社 (旧 PPS) ― ― 低圧は未解禁。

小売全面自由化初月2016.4 新ライセンス制 10 374社 ― 発電届出制開始 登録初日の社数。

発送電分離直前2019 改正電気事業法準備 10 (持株化へ) 約 600社 0 ≈2,500社 届出発電が急増(太陽光FIT等)

法的分離実施2020.4 送配電部門分社化 0 約 700社 10社 (一般送配電)+特定送配電 ≈70社 ≈3,100社 旧10電力はホールディング+送配電へ。

多様化期(最新)2025.6 現行制度 0 772社 10 (一般送配電)+68 (特定送配電) 3,000社超(届出一覧ベース) 再エネ案件が牽引し発電専業は“数千社”規模に。

(注) 垂直統合型…発電・送電・配電・小売を同一社が営む形態。2020 年4月の法的分離で事実上消滅。 小売専業…2016 年4月以降については登録小売電気事業者。みなし小売(旧10電力)を含む。 送配電専業…地域独占の一般送配電事業者10社(旧設備部門)+工業団地電力網など特定送配電事業者。 発電専業…2016 年4月創設の発電事業届出対象(≥1万 kW相当)で、FIT/FIP再エネ主体に急増中。